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令和4年司法試験 刑訴 再現答案

刑訴 再現答案(刑事系科目102.84、刑法B刑訴A)

(全体で6.5枚。設問1で3枚、設問2⑴で2.5枚(1と1.5)、設問2⑵で1枚)

 

第1、設問1

1 事例1記載のおとり捜査は「強制の処分」(197条1項但し書き)にあたり「特別の定」が必要ではないか。

⑴ 強制処分には刑訴法による法定が必要であるし、現に法定されているものの要件・手続は令状主義と結合した厳格なものとなっている。

したがって、「強制の処分」とは相手方の意思に反し、重要な権利利益を実質的に制約する処分をいう。

⑵ おとり捜査の対象者は犯罪が禁止されていることを理解して犯罪を実行しているから、法的保護に値する自己決定の権利が制約されているとはいえず、重要な権利利益の制約がない。

⑶ したがって、おとり捜査は「強制の処分」にあたらず、令状主義に反しない。

2 おとり捜査には、捜査比例の原則が適用され、捜査の公正及び法益侵害を考慮して、その二つの問題点より捜査の必要性がある場合に捜査が適法となる。

⑴ 100gの譲受け

ア H県警察I警察署の司法警察員らは、過去の大麻事件の捜査過程から大掛かりな大麻密売の疑いのある者として甲の存在を把握したから、甲には大麻犯罪の嫌疑があった。甲は、契約名義の異なる携帯電話を順次使用しており、身元や所在地は関係者の供述からも不明であったから、甲の信頼をつかむ上で100gの大麻の購入を持ち掛ける必要があった。出所したAは甲から大麻の購入を持ち掛けられた旨をPに述べているから、甲は未だに大麻を密売していることが伺われるし、この機会に甲について捜査を進める必要があった。

イ Pは甲に電話をかけ、「大麻を5キロ欲しいが、まずは100グラムをサンプルとして手に入れて、その質を確認したい。」旨述べた。これに対し、甲は「安全に取引できる場所があるか不安なので、気が進まない。この間、知り合いの密売人も捕まった。」と述べ、大麻の譲渡に乗り気ではないことを明示している。しかし、Pは安全に取引できる場所を提案して、甲に大麻を譲渡することを決意させた。これらの事情からすると、おとり捜査の手法は機会提供型だがその執拗さが小さいとはいえない。一方、被害者が存在しないため、法益侵害はない。

ウ おとり捜査の手法は執拗で公正さをある程度欠くが、大麻犯罪の重大性や甲への捜査の困難性からすると、100gの購入は相当性があった。

  したがって、上記譲受けは適法である。

⑵ 10kgの譲受け

ア そもそも甲におとり捜査をしようとしたのは、甲に対する大掛かりな大麻密売の全容を明らかにするためであるから、100gの大麻購入にとどまらず10kgの大麻を購入しておく必要があった。さらに、甲は「10キロ程度なら扱うこともある。」旨述べており、甲への大掛かりな大麻密売の疑いがさらに強まっている。さらに、100gの譲受けだけでは大掛かりな大麻密売の全容を解明できないから10kgの譲受けを受ける補充性がある。さらに、この機会を逃せば用心深い甲は二度と大量の大麻販売をしなくなるかもしれない。したがって、上記譲受けをする必要性がある。

イ 取引の前日に、甲はPに対し、「明日の取引は取りやめたい。」と告げた。Pはこれに対して、PがX組との取引を続けてきた者だから信用性があることや代金を1.5倍支払うことを提案した。それでも甲が渋ったので、Pは10kgの購入を提案した。PはAと示し合わせて、Aが甲に対して、Pが古くからX組と交遊し取引もある信用できる人物である旨を告げるよう指示した。これらの事情からすると機会提供にすぎないといえど、かなり執拗な捜査を行っているといえ、捜査の公正が害されているといえる。

ウ しかし、上記犯罪の重大性と捜査の補充性から捜査に相当性がある。

  したがって、上記譲受けは適法である。

3 よって、事例1のおとり捜査は適法である。

第2、設問2小問1

裁判所が前紀の心証に至った理由

1 乙は、灯油を散布した上、点火した石油ストーブを蹴り倒して着火させ、本件家屋に放火したことを供述した。検証結果等によると上記方法によって灯油に着火できることが判明した。

  しかし、乙の非現住建造物等放火事件の公判期日において、乙は放火したことにつき否認した。さらに、火災科学の専門家の証人尋問において、裁判所が石油ストーブを倒す方法以外での着火の可能性について補充尋問すると、専門家は他の手段によって放火できることも証言した。

したがって、乙の実行行為は石油ストーブを倒す以外の第三の方法で行われた可能性を否定できず、灯油を散布し何らかの方法で着火したことまでしか心証形成できない。

そのため、裁判所は上記心証に至った。

資料1の公訴事実に対して資料2の罪となるべき事実で判決できるか

1 資料1の公訴事実に資料2の判決をすることは「審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと」(378条3号)にならないか。

2⑴ 訴因とは一方当事者たる検察官の主張する犯罪構成要件に該当する具体的事実をいう。

   ここで訴因の機能は裁判所に対する審判対象の識別にあるから、審判対象の画定に必要な事項に変更があるなら訴因変更が必要となる。

   また、訴因の機能は被告人に対する防御範囲の告知にあるから、被告人の防御にとって重要な事項につき変更があるなら、検察官が訴因で明示している限り、訴因変更が必要である。ただし、訴訟の審理状況から被告人に不意打ちとならず、かつ、被告人にとって判決事実が訴因事実に比して不利益でない場合は例外的に訴因変更が認められる。

 ⑵ア 点火した石油ストーブを倒して火をはなったという公訴事実も、何らかの方法で火を放ったという認定事実も、放火罪の実行行為に変わりはないので、構成要件事実として識別機能を害さない。さらに、いずれの事実も令和3年11月26日のB所有家屋を対象としており、他の犯罪事実との識別という点からも識別機能を害さない。

  イ ここで、放火の方法は一般的に被告人の防御にとって重要な事実であり、本件では放火の方法が訴因で明示されている。したがって、原則として訴因変更できない。

    しかし、本件では証人尋問において乙の公訴事実以外の放火方法の可能性について専門家が示唆している。また、裁判所は、弁護人に対し、放火の態様に関して追加の主張、立証の予定があるかを確認した。したがって、訴訟の審理状況から認定事実は不意打ちとならない。

    さらに、認定事実も公訴事実も同じ犯罪が成立するにすぎないので、被告にとって不利益がない。

3 よって、訴因変更をしなくても資料2の罪となるべき事実を認定して、判決ができる。

第3、設問2小問2

1 訴因変更の要否

⑴ア 共謀の日時は犯罪の構成要件該当性という観点からも、他の犯罪事実との識別という観点からも、識別機能を害さない。

 イ ここで、共謀の日時は被告人が防御範囲を把握する際に重要な事実である。共謀成立の日時については訴因で明示されていないものの、告知機能という点からすると訴因に明示されていない場合であっても訴因変更制度の趣旨が妥当し、訴因変更をすることが原則できない。

   共謀の日時については令和3年11月1日であるかという点でしか攻防が展開されていないから、審理状況からすると共謀の成立を令和3年11月2日であると説示した上で、資料3の通りの事実を罪となるべき事実として認定して判決するのは被告人に対する不意打ちとなる。

 ウ したがって、同月2日とするには訴因変更の要否の趣旨が妥当し、訴因変更手続を要する。

2 訴因変更の可否

⑴ 「公訴事実の同一性」は新旧両訴因に基本的事実関係の同一性があるか否かで判断する。基本的事実関係の同一性は、新旧両訴因の事実の共通性を基準に非両立性を補完的に考慮する。

⑵ 令和3年11月1日か2日かは1日のズレしかなく、事実の共通性がある。さらに、両事実は非両立である。

⑶ したがって、訴因変更の可否の範囲内として訴因変更の手続きを通じて、共謀の日時を変更できる。