再現フレンズ

司法試験系の論文試験の再現答案をあげるよ

令和4年司法試験 租税法 再現答案

60.35点

【第1問】

第1、設問1

 1 B はサラリーマンとして働く傍ら甲・乙を賃貸して収入を得ているので、これによる所 得は事業所得(27条)ではなく不動産所得(26条)である。

 2 次に、甲・乙に関する平成24年度の固定資産税を必要経費(26条2項、37条1項)に算入できるか

 ⑴ア 固定資産税は上記所得につき「直接に要した費用」ではない。

  イ 一方、甲・乙の賃貸のためには固定資産税を支払うのが前提だから、事業の遂行上必 要な費用として固定資産税は「業務について生じた費用」といえる。

 ⑵ しかし、「別段の定めがあるもの」として、必要経費に不算入とならないか。

 ア 甲

 (ア)56条1項の趣旨は、同族間における所得分散防止にあるが、配偶者が独立事業者 でも所得の分散はされうる。したがって、独立事業者間においても56条1項が適用されうる(弁護士夫婦事件)。

 (イ)本件では、Dは税理士として独立して事業を営んでいる独立事業者であるが、その場合でも所得分散を図り得るので、同条項が適用できる。

したがって、「対価に相当する金額」である平成24年度の固定資産税は「必要経費」に算入しない。

イ 乙

 固定資産税は、「地方税法」(45条4号)により徴収される税であるから、「必要経費に算 入しない」(同条柱書)。

⑶ よって、平成24年度の固定資産税は必要経費に算入できない。D は青色申告を提出していないので、57条も適用されない。

第2、設問2⑴

 1 まず、P 説によると遺産分割の効力が「相続開始のときにさかのぼって」生じる(民法 909条本文)ため、B は A の死亡時である平成22年1月1日の時点で甲を有していた ことになる。 以上を前提に検討する。

 2⑴ B は、甲という「資産」を「譲渡」した(33条1項)。この譲渡は33条2項各号の場合にあたらない。

 ⑵ 「総収入金額」は2000万円である。

 ⑶ 「資産の取得費」(33条3項、38条1項)とは、資産の客観的価格を構成する取得代金のほか、資産を取得するために支出した付随費用も含む(支払利子付随費用事件)

 相続登記費用は資産を取得するために必要な付随費用である。一方、代償金については、Bが遺産分割よりも前に甲を取得していたことからすると、資産の取得に要した費用とはいえない。

 したがって、相続登記費用のみが「取得費」に算入できる。

 ⑷ B は単純承認によって甲を取得したので、59条1項1号・60条1項は適用されず、B は平成22年1月1日から甲を保有していたことになる。

 そのため、甲の譲渡による譲渡所得は長期譲渡所得(33条3項2号、22条2項2 号)にあたる。

 3 よって、甲の譲渡による譲渡所得は総収入金額2000万円から、取得費16万円と特 別控除額50万円(33条3項柱書、4項)を控除した額に2分の1を乗じた額となる。

第3、設問2⑵

1 Q説によると、Bは遺産分割時に甲の共有持分権を有するCから、同持分権を取得した ことになる。以上を前提に検討する。

2 ⑴ Bは甲という「資産」を「譲渡」した。

 ⑵ 「総収入金額」は2000万円である。

 ⑶ 「資産の取得費」には、相続登記費用だけでなく、代償金の額も含まれる。

 代償金は、Cから甲の持分権を取得する際に要した費用だからである。

3 よって、甲の譲渡による譲渡所得は、総収入金額2000万円から取得費16万円と900万円を控除した額に、2分の1を乗じた額となる。

第4、設問2⑶

1 P説

P説によると、BはA死亡時に本来的にBが取得していたことになるので、代償金の取得は 「譲渡」による収入とはいえず、譲渡益は生じない。

2 Q説

Q説によると、BはCからCの甲持分権を取得することになるので、代償金の取得は「譲渡」 による収入といえ、譲渡益が生じる。

第5 設問3

1 乙の譲渡は「資産」の「譲渡」にあたる。

2 「総収入金額」は2600万円で、Bは乙を1500万円で取得しているから「取得費」 は1500万円である。

3 ここで、BはFの主債務についての連帯保証債務を履行するために、乙を売却している ので64条2項が適用されないか。

 64条2項の趣旨は、他人の債務についての保証債務を履行した保証人が、主債務者に求償権を現実に行使できなかった場合に、債務履行のためにした資産の譲渡所得にまで課税すると保証人に過度な負担となるのを防ぐ点にある。

 Bは、「保証債務を履行するため」に乙を「譲渡」したが、「求償権の全部」を行使できなかった。

 したがって、回収できなかった1000万円について「所得の計算上、なかったものとみ なす」(64条1項)。

 


【第2問】

第1、設問1

 1 A が取得した委託手数料は事業所得(27条1項)か給与所得(28条1項)か。

 2 事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、反復継続して行う意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生じた所得をいう。

給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づいて、使用者の指揮命令に服して、 提供した労務の対価として受けるべき給付をいう。

 3⑴ A は契約で定められた事項によってのみ B 社に従属しているから、使用者の指揮命 令に服しているとはいえない。委託手数料は検針業務及び付随業務に応じた 出来高制だから、自己の計算において収入を得ている。就業時間は定例検針日の日数と受持件数次第で異 なるから、拘束性がない。主要な交通手段であるバイクの購入・維持費等は A の個人負担だから、自己の危険において業務を遂行しているといえる。A は検針作業を第三者に代行させることもできるので、独立性がある。

  ⑵ A の業務内容については B 社が責任を負い、A は B 社から身分証明書の交付を受け、社名入り作業衣等が貸与されているが、これは A の業務において損害等が生じたときに第三者が求償をしやすくするための外形上の表示にすぎず、A は実際に損害が生じたときは 清算金を支払う形で責任を負っているから、このことをもって独立性は否定されない。定例日制のために検針日が定められているが、これ以外の業務遂行日程については決められておらず、独立性は否定されない。A は月一回程度、B 社会議室での打ち合わせに出席しなければならないが、危険を伴う検針作業は定期的に仕様の確認や作業においての注意を促す必要があるからこれによって独立性は否定されない。委託手数料は B 社の一般従業員に相当し、特別謝礼金や解約謝礼金も支払われるものの、これによって独立性は否定されない。

 4 よって、委託手数料は事業所得にあたる。

第2、設問2

 1 A が B 社に支払った40万円は必要経費に算入されるか(27条2項、37条1項) に算入されるか。

 2 解決金は「直接に要した費用」ではない。一方、解決金を支払わない場合は B 社との 信頼関係が悪化するおそれがあるため、 同関係維持のために解決金は事業の遂行上必要な 費用にあたり「業務について生じた費用」にあたる(37条1項)。

 3 しかし、「別段の定め」により必要経費算入が否定されないか。 解決金は「損害賠償金」(45条1項8号)にあたり、さらに A は「重大な過失」によってB 社の財産という「他人の権利」を「侵害」したので(所得税法施行令98条2項)、「必要経費に算入しない」。

 4 よって、解決金は必要経費に算入されない。

第3、設問3

 1 過大に支払った電気料金は「一般管理費」(22条3項2号)として、令和2年の事業 年度の損金に算入される。

 2 次に、B から受け取った清算金は「その他の取引」での「収益」として益金に算入され る。

 ⑴ では、上記益金はどの事業年度の益金に算入されるか

 ア 法人税法においては、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従い計算される。したがって、益金は収益の原因となる権利が確定したときに算入される(大竹貿易事件)。

ここで、損害賠償債権は損害の発生時に発生するから権利の確定も同時点である。しかし、 通常人を基準として、権利の内容が把握できない場合など、権利の行使を期待できない客観的事情がある場合には、権利の行使を期待できるようになった時点で益金に算入される(日本美装事件)。

 イ A による設定変更は B 社という電力会社の業者でも把握できなかった。さらに、C 社にとっても過大に徴収されていることを直ちに発見することは困難であった。 そのため、通常人を基準に権利の内容を把握できず、権利行使できない客観的事情があった。

 ⑵ したがって、上記益金は設定の誤りが発覚した令和3年の益金に算入される。

第4、設問4

 1 過大に受け取った電気料金は「資産の譲渡」及び「役務の提供」として益金に算入され る。

⑴ ここで上記益金は清算金の支払いをしたため、この時点では益金算入できないように思える。

ア 権利確定主義の趣旨は納税者の課税時期における恣意防止にある。したがって、収益の 原因となる権利が確定していない場合でも、権利に関する金員等を現実に収受し、収益が実現したといえる状態が生じた場合は 、同時点で益金に算入しても課税時期の恣意を排除できる。

イ B社はC社から現実に金員を収受して、収益が実現したといえる状態が生じている。

⑵ したがって、令和2年の事業年度において益金に算入される。

 2清算金の支払いは令和3年の事業年度において「損失」(22条3項3号)として損金に算入される。

第5、設問5

 1 退職所得(30条1項)の趣旨は、退職金が継続的な勤労に対する報償及びその間の労務の対価の一部の後払い的な性質を有するうえ、老後の生活の糧となる機能を有することから、一度に高額の課税をすることをさける点にある。

 2 Dは勤続期間が13年なので30条3項2号により金額が計算される。さらに、22条 3項も適用される。徴収方法については源泉徴収(199条以下)による。