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令和4年司法試験 刑法 再現答案

刑法 再現答案(刑事系科目102.84 刑法B刑訴A)

(全体で6枚ちょうど。設問1で1.5枚、設問2で4.5枚。一行あたり最大32文字、平均25文字)

 

第1、設問1

1 主張⑴

⑴ 窃盗罪において、本権の裏付けのない占有が保護されていることと同様に横領罪においても本件の裏付けのない委託信任関係も保護されるべきである。

⑵ 本件では、AはB所有の本件バイクを盗んだだけであり、Aに本件の裏付けはない。しかし、甲は本件バイクを預かるようにAに依頼されて、これを承諾する形で本件バイクを管理するに至ったので、Aと甲との間には保護すべき委託信任関係がある。

⑶ したがって、甲が本件バイクを「横領」すれば横領罪が成立しうるといえ、主張⑴は妥当である。

2 主張⑵

⑴ 「横領した」とは、委託の趣旨に背き、権限なく所有者でなければできないような処分をする意思の発現行為をいう。

⑵ 甲は、Aのために本件バイクを預かっていたが、Aを困らせようとAに無断で本件バイクを移動させているから委託の趣旨に背いているといえる。甲は、本件バイクを自由に処分する権限を有していない。

  ここで、甲は本件バイクを隠しただけであり移動させた後にどうするか考えていなかった。しかし、甲の自宅から約5km離れた実家の物置内に本件バイクを移動させた場合、本件バイクの保管場所を知っているのは甲だけになる。このような状態になれば、窃盗をしたAだけでなく、所有者Bも本件バイクを把握するのが困難になる。この状態にすることは実質的に甲が本件バイクを処分したものといえる。

⑶ したがって、甲が本件バイクを「横領した」といえ、主張⑵は妥当である。

第2、設問2

1 乙の、Aの右上腕部を狙って本件ナイフを同部に強く突き刺した行使に傷害罪(204条)が成立しないか。

⑴ア 刃体の長さ18cmのサバイバルナイフという鋭利な武器を右上腕部に強く突き刺す行為は身体侵害の現実的危険のある実行行為といえる。

 イ Aは加療約3週間を要する右上腕部刺傷の傷害を負い、生理的機能を害されているので「傷害」結果が生じている。上記行為と結果との因果関係もあるし、甲には同罪の故意(38条1項本文)もある。

 ウ したがって、乙の上記行為は傷害罪の構成要件に該当する。

⑵ ここで、乙はAが甲を殴っていたことから、甲の身体という「他人の権利」を防衛するために上記行為に及んだのであるから、正当防衛(36条1項)が成立し違法性が阻却されないか。

ア 「急迫」性の要件は、自力救済禁止の原則が妥当しない例外的な緊急状態を要求する要件である。したがって、被侵害者が積極的加害意思をもって侵害に臨むなど、緊急状態を認めるに足りない状況である場合には、「急迫」性が否定される。

イ 甲はAが短気で粗暴な性格で、過去にも怒りに任せて他人に暴力を振るったことが数回あったことを知っていたため、Aの前に姿を現せば、Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと思っており、侵害を予期していた。さらに、甲は頭に血が上り、刃体の長さ15cmの本件包丁という危険な武器を準備して公園に向かっている。

  Aは甲の姿を見るなり「お前、ふざけんなよ。ボコボコにしてやるからな。」と怒鳴り声をあげているが、甲はこれに対し「できるものならやってみろ。この野郎。」と大声で言い返してAを挑発している。

ウ 上記事情を考慮すると、甲において正当防衛を認め得る緊急状況はなかったため、「急迫」性が否定される。

⑷ ここで、乙は上記⑶の急迫性を否定する事情を認識していなかったのだから、責任故意が否定されないか。

ア 違法性阻却事由の不存在について認識がない場合、違法性の意識を喚起できず、行為者は規範に直面できず、故意責任を問うことができない。したがって、狭義の誤想防衛は事実の錯誤であり、責任故意が阻却されると解する。一方で、過剰性の事実につき認識している場合、規範に直面しているといえ、責任故意を阻却できない。

イ 以下では、乙の認識していた事実において正当防衛の要件を満たすか検討する。

(ア) 「急迫」とは、現に侵害が存在し又は間近に押し迫っていることをいうが、乙は急迫性を否定する状況を認識していないうえで、Aが甲を殴打しようとし侵害が間近に押し迫っている状況を認識していた。したがって、「急迫」性がある。

    Aが甲を殴打しようとする行為は暴行罪にあたる「不正の侵害」である。

(イ) 「防衛するため」といえるには、防衛の意思が必要であり、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態があることを要する。乙は甲による急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けるという単純な心理状態であったので、防衛の意思がある。

    乙は甲の身体という「他人の権利」のために上記行為に及んだ。

(ウ) 「やむを得ずにした」といえるには、防衛行為の必要性・相当性を要する。

    乙の認識だと、Aは一方的に甲に攻撃を加えようとしていたから、Aを止めるには本件ナイフでAを突き刺すことで、Aの攻撃を止められるといえ、必要性があった。

    甲は本件包丁を持ってAの侵害に臨んでいたが、甲はこれにつき認識していなかった。甲、乙及びAはいずれも20歳代の男性であり、各人の体格に大差はなかったので、乙が甲に協力した場合、Aに対して2対1になるが、Aが甲を一方的に攻撃していたことからしても、本件ナイフで刺すのは相当性がないとまではいえない。

ウ したがって、乙は違法性阻却事由不存在の認識を欠くし、過剰性の認識もないので、責任故意が阻却される。

⑸ よって、上記行為に同罪は成立しない。

2 乙の、本件原付をDに無断で発進させた行為に窃盗罪(235条)が成立しないか。

⑴ア(ア) 「他人の財物」とは他人の占有する財物をいう。ここで占有が認められるには、財物に対する客観的支配と支配意思を考慮して、財物に対する事実的支配があるかどうかによって判断する。

  (イ) Dは、配達のため本件原付の近くにいなかったが、Dは配達のために一時的にその場を離れただけで、財物に対する客観的支配がなくなったとまではいえない。また、Dは配達のために本件原付から離れただけで、本件原付を失念したわけではないから、支配意思がある。

  (ウ) したがって、Dには本件原付の占有があったといえ、本件原付は「他人の財物」にあたる。

イ 「窃取」とは、占有者の意思に反する占有移転をいうが、本件原付を発進させることはDの合理的意思に反する占有移転といえるから「窃取」にあたる。

 ウ 乙には同罪の故意がある。さらに、乙は本件原付を使ってAの追跡を振り切り、安全な場所まで移動したら本件原付をその場に放置して立ち去ろうと考えていたので、乙には権利者排除意思と経済的利用処分意思があるといえ、不法領得の意思も認められる。

 エ したがって、上記行為は窃盗罪の構成要件に該当する。

⑵ 乙は、Aの追跡から逃れるために上記行為に及んだのであるから、緊急避難(37条1項)が成立し違法性が阻却されないか。

ア 緊急避難においては法益権衡が要件の一つとなっているから、緊急避難は違法性阻却事由であると解する。

イ Aは乙を捕まえて痛めつけようと考え、走って乙を追いかけているから「現在の危難」が生じている。

  さらに、乙は「自己」の「身体」に対する危難を避けるため、上記行為に及んだ。

ウ 上記行為は、乙がAの追跡を振り切る唯一の手段であったから「やむを得ずにした行為」といえる。

エ 「生じた害」はDの本件原付の占有権・所有権という財産の利益であり、「避けようとした害」は乙の身体の利益である。したがって、「生じた害」が「避けようとした害」の「程度を超えなかった場合」にあたる。

オ したがって、上記行為には緊急避難が成立し、違法性が阻却される。

⑶ よって、同罪は成立しない。