再現フレンズ

司法試験系の論文試験の再現答案をあげるよ

新司12勝4敗投手流・あまり負けない戦い方

【はじめに】

先日、出身ローである都立大ローで合格者報告会が行われ、僕も合格者として勉強法等の報告をさせて頂きました。

僕以外にも合格者の方々が報告をされており、それぞれ違った受験戦略のお話をたくさん聞くことができ、参考になりました。

この記事は、僕が報告したときの参照メモを、少し敷衍し受験生全体に参考になるように加筆修正したものです。確実に落ちないためにはどうすればいいかを考えて試験に臨んだので、その観点で参考になるかと思います。

(タイトルについてですが、こないだ某アカウントが新司法試験全16回の合格最低順位を令和4年司法試験に換算した順位を列挙していましたが、僕は12勝4敗でした。確実に落ちないという観点ではそこそこ参考になる実績だと思います。)

 

【どれくらいを目標にするのか】

・目標は、多少失敗しても落ちないようにすることです。司法試験は大学受験と異なり、滑り止めがなく受験失敗時の人生へのリスクが今までの受験に比して高いので、確実に合格すること(落ちないようにすること)が重要です。

この「落ちないようにすること」というイメージがとても重要です。落ちないようにすることは、みんなができることを確実にできるようにすることです。複数回受験生の方で「来年は上位合格してやる」と意気込む方もいますが、とても危険なイメージだと思います。まず、”絶対に落ちないようにどうすればいいのか”を考えるべきです。あいかわ先生も「上位合格は基礎の精度の高さにある」みたいなツイートをしていたかと思います。まずは、「落ちないようにすること」を強烈にイメージすることが重要だと考えます。

 

・では、落ちないようにするための具体的な数値目標はどのくらいでしょうか?確実に落ちないようにするには確かに1位を狙うべきですが、1位を目指す勉強と落ちないようにする勉強は全く違います。1位と100位、100位と700位では見えている世界が全く違います。

700位から1400位まではあまり違いはなく、受験技術・戦略の巧拙に依存しているような気がします。落ちないようにする勉強では、700位から1400位の分布をまず目指すべきです。

しかし、1000位から1400位の分布は少しでも失敗したら落ちます。司法試験はどんな人でも1科目は失敗する可能性がありますから、確実に合格するという観点ではこの分布を目標にすると悪手です。

したがって、具体的な目標順位は700位(択一120〜140、論文各科目平均50〜55点)です。

 

【50点答案とは何か?】

これまたイメージの話ですが、50点を確実にとるためには、イケメンっていうより雰囲気イケメンを目指しましょう。司法試験は基礎知識さえあれば、あとは見せ方の試験です。説得力の試験です。学説や判例の理由付けなど、中身の正確性は理解する上では重要ですが、落ちないようにするためには重要ではありません。

 

50点答案を確実に量産するための要素を以下で説明します。

 

①問題文の指示を絶対に守る(誰から誰?、結論の方向性など)

問題を解くときはまず、設問文の指示から読むことをおすすめします。設問には「原告適格を認める方向で」や「甲の罪責を論ぜよ」(乙が登場してても検討不要)など、問題を解くときの指示があります。これを無視して論述すると、全く点数が入りません。

 

②途中答案しない

途中答案をすると、その部分の点数は0点です。わからなくても何かしら書いておけば、採点側からしても1点くらいはあげられるかもしれません。途中答案の防ぎ方については本ブログにある記事も参照してみてください。

 

③条文からスタートする、原則→例外の順番をしっかり表現する

原則→例外の順序で事案を処理することは、成文法である日本の法律においてとても重要です。予測可能性の確保や適正手続の担保の側面から、通常は条文通りの処理をします。

条文の解釈をして処理するのは例外的場面です。例外的場面は、条文の病理現象として判例法理に規定されます。

この思考過程を理解していることを示すために、条文から処理します。より抽象化すると「原則→例外」の順序を守って処理します。

 

④三段論法を守る

規範→事実→評価→規範の繰り返しの順に論述します。

規範は正確に、理由付けは短く書きます。

事実は丸写しします。例えば、「刃渡り15cmのサバイバルナイフ」を勝手に「危険なナイフ」と引用しないでください。「危険なナイフ」は事実ではなく、評価が含まれています。事実の適示に大きく点数が振られていますので、ここの引用を誤ると点数が取れなくなります。

事実引用・事実評価後には必ず規範に戻ってください。

 

⑤基本的な定義を覚える

裁判上の自白、偽造、弁論主義3つ・・・。それぞれ定義をすらすら言えますか?

みんなが書ける定義はしっかり書かないと大きく点数を下げることになります。

 

定義の重要性は思っているより高いです。

例えば、偽造の定義は「名義人と作成者の同一性を偽ること」です。名義人は「文書から理解される意思観念の主体」です。作成者は「文書を作成した意思の主体」です。

問題文を読むときにこの定義が頭に入っていないと、問題文をみて検討すべき犯罪を探し出せません。株主総会の決議書を偽造した問題が過去に出題されましたが、名義人の定義がわからないとどこを名義人として抽出できるか当たりがつけられず、作成者とのズレがあることに気付かずに論点を落とす可能性があります(あの問題の雰囲気であれば定義覚えていなくても偽造っぽいことには気づきますが・・・)。

さらに、定義が書けないと、三段論法の大前提になる抽象論の提示ができず、事実を引用したとしても法的な議論をしたことになりません。「文書には甲の名前が書いてあるが、作ったのは乙なので偽造である。」と論述しても素人のツイートと変わりません。

 

⑥典型論点を確実に処理する

みんなができることを確実にできるようにするという観点から、まず、辰巳の星論点・各予備校のA論点を確実に書けるようにするということが必要です。確実に書けるとは、論点を抽出できるとか規範を書けるとかいうレベルではありません。加藤ゼミナールの総まくり講座のテキストの無料公開部分を見てください。典型論点はあのレベルで処理できないと今の司法試験では負けてしまいます。

 

次に、重要なB論点の順で片付けます。ここで重要なのは、メリハリ付けです。Aランク論点が確実に処理できないのに、Bランク論点に時間をかけてはいけません。みんなができることを確実に処理するのが重要です。

 

【スケジューリング】

・直前期(3ヶ月前)には起案もできないし、新しい知識を入れるのも難しいです。

模試までに1周、本番までに1周の総復習ができると安心して本番に臨めます。

時間がないので、2日で1科目で一元化教材を回します。人間の記憶は質ではなく見た回数の方が重要なので、大量・高速回転が重要です。

上述の通り、直前期は同教材だけを見るので、一元化教材には、規範だけでなくあてはめの順序や問題の読み方、自分のミスを全て記載しておく必要があります。

 

・択一は毎日やると直前期に焦って論文の時間を失うことが防げます。直前に高速回転できるよう苦手な肢はマークしておくと便利です。

 

【メンタル】

落ちたら人生終わるなあと考えてしまい不安になることもありました。落ちても就活すれば死ぬことはないようなので、絶望する必要まではないと思ってはいました。ですが、ここでぬるく勉強して落ちるより、全力を尽くして挑んで落ちる方が今後の人生の糧になると思い、開き直って勉強してました。

(豆ごはん先輩が報告会で「司法をあきらめたとしても就職できている人もいるから、落ちたら死ぬとか考えず、絶望せずに頑張って欲しい」とおっしゃていたことがとても印象に残っています。就職できるかについては、正直属人的な側面があるかと思います〔僕のような社会不適合者だと就職の難易度が上がる〕。しかし、ネット記事を見る限り、それなりに就職できている人は見受けられますし、落ちたら死ぬみたいなメンタルだとキツすぎて勉強に集中できません。ここらへんはロースクールの制度上、どうしても不安になりますが、なんとか考え方を構築してマインドを整える必要があります。

 

逆に、超直前期からは“受かる”ってイメージしか持たないようにしましたし、もう落ちても別にいいやみたいなマインドにしました。そういうマインドにしないと、試験中に方向性に迷って型が崩れてしまうからです。

憲法の問題を見た瞬間、(げっ・・・)と思いましたが、数秒後には笑ってました。(バカじゃねーの、司法試験委員会wwwwwこんなん試験にならねーよwww)って思ってました。型だけ守ってテキトーに書き、結局憲法はA(たぶん57点)でした。

このマインドの切り替えについては僕はかなり強かったです。たぶん中央ローで落ちてどん底に落ちたからだと思います。ありがとう中央ロー・・・。

 

おわり

 

 

 

加藤ゼミナールで逆転合格(?)したよ(合格体験記)

1.プロフィール

中央大学法学部法律学科 卒業

東京都立大学法科大学院(既修) 2022年卒業

令和4年司法試験 合格

 

2.受講講座

・基本7科目の司法試験対策パック

 

3.成績

総合 約860点 700位台後半

論文 約420点 700位台前半

公法系  約115点(憲法A、行政法A)

民事系  約140点(民法B、商法B、民訴法C)

刑事系  約100点(刑法B、刑訴法A)

租税法  約60点

短答 憲法30点 民法45点 刑法47点 合計122点

 

4.はじめに(加藤ゼミナールに出会う前)

  私は、学部1年のときに他の予備校で司法試験入門講座を受講しました。その予備校は、法律問題全てに用いることができる思考手順を教えてくださり、論文を全く書けない状態から何かしら書ける状態になるのは容易でした。しかし、その予備校はあえて、法律論の中身、細かいあてはめのやり方、三段論法を教えていませんでした(私が吸収できなかったのかもしれません)。

  同予備校で学んだ思考手順は本試験でも使いましたが、同予備校で教えてくれなかった上述のことはロー入試段階で大きな痛手になりました。私は、法律論・あてはめの手順・三段論法を軽視した結果、中大生ならほとんど合格する中央ローに不合格になりました。

  先輩や同期の力を借りて上述した問題点を改善し、その後の都立大ロー入試は突破しました。ですが、このまま司法試験を1発で合格するには更なる改善が必要でした。司法試験本番では、上述した点ができるのを前提に、それより上のレベルの要素で上位ロー生・予備試験経由受験生と戦うことになるだろうと考えたからです。

  私は、もう一段階上の突破口はどこだろうと考えつつ、ロースクールに入学しました。

 

5.講座を選択した経緯・理由

 本試験の過去問を見たことがある方はわかると思いますが、司法試験は問われていること自体は明確なことが多いです。ですが、司法試験の問題は基本的な論点についての深い理解を問うているので、論点自体に気づいて答案作成したとしても点が稼げるわけではありません。さらにいえば、問題文の事実はあてはめの要素を前提に作成されているので、論点の存在を知っていてもあてはめの要素を知らないと、問題文の事実及び誘導の意味を理解できないまま問題文を読み始め、構成が崩壊したり、指示を無視して構成したりして、点が稼げないどころか全くもらえなくなるおそれもあります。

 

例えば、今年の行政法設問1(1)は“原告適格が認められるか”と論点を明示しており、論点自体は明確です。しかし、原告適格を“不利益の把握→行政法規による保護→個別的利益としても保護→規範を立ててあてはめ”という型に従って書き、さらに誘導のいうことをしっかり聞きながら、個別法をシステマチックに拾える受験生はあまり多くいないと思います。同じ行政法の処分性については、判例の規範をそのまま使って、同規範に無理やりあてはめている受験生もいると思いますが、これでは問題文の事情をうまく使えないでしょうし、誘導自体が理解できない場合があります。

 

私も、ロースクール入学直前に司法試験過去問に着手しましたが、論点はわかるがどうやって書けばいいか全くわからないという状態でした。これでは周りの受験生を追い抜けないとしばらく悩んでいました。そこでいろいろな予備校で過去問解説講座を探しました。ですが、どの予備校も論点抽出方法や論点の解説をして、あてはめの事情は思考過程を示さずに提示するだけで私のニーズにはあっていませんでした。そんなときに見つけたのが加藤ゼミナールの過去問講座でした。

 

 加藤ゼミナールの講義は、加藤先生が無料で提供していた令和3年司法試験リアル解答速報で初めて受講しました。加藤先生は、論点の解説がわかりやすいだけでなく、問題文を読むときまず何をすべきか、問題文の事実をどう読んでいくのか、構成をうまくやるコツなどを、非常に丁寧にしつこく説明していました。加藤先生は受験生が六法だけで試験会場にいるときにどう行動すべきかを細かく考えていると思います(センスで片付けていない)。特に、私が感動したのは憲法の解説で、加藤先生の講座をしっかり吸収すれば水物といわれる憲法も安定して合格点がとれると確信しました。

 

私は、加藤ゼミナールの過去問講座を消化すれば点を稼げる答案を書けるようになると考え受講し始めました。過去問講座受講開始後、私の理解力では過去問講座だけでは足りないと思ったので総まくり講座も受講し始めました。

 

6.講座・教材の使い方

★総まくり講座の使い方★

 講座の受け方についてですが、講座の前にテキストの予習はしていません。講座を見るとき倍速機能は使いませんでした。加藤先生の講義は情報量が多く、速くしたらわからなかったからです。一度聞いてわからないところは巻き戻して聞き直していました。何度聞いてもわからないところはメモをしておいて放置しました。その部分については過去問を解いたり復習したりしていると急にわかることもありました。

 

講座を見て大事だと思ったことはメモをしていました。このとき判例・学説部分についてはあまりメモをせず、問題を解くときに重要なことを中心にメモしていました。さらに、自分の起案スピードだと書ききれないと思った論証については、マーク指示を参考に論証を短くする作業をしました。論証を短くする作業は、文全体の意味が変わらないよう強く意識して行っていたため、結果的に論証の核を理解し記憶する勉強にもなりました。過去問演習以外の時間はほぼこの作業に費やしていました。

 

 総まくり講座・過去問講座は加藤先生の計画に従い、科目別に、公法→刑事→民事の順に消化していました。私は学習の進みが遅く民事系に着手したのが1月でした。総まくりと論証集の双方ともにメモを反映することはできないので、商法・民訴法については論証集を使いませんでした(民法は総まくりテキストが分厚かったので論証集も使用)。

 

★過去問講座の使い方★

 ABランクの過去問までしかできませんでした。Cランク過去問については、総まくりだけで理解できない論点があったときにその論点を理解するために答案を参照しました。

 

【手順】

 ①過去問を2時間で起案する

 ②テキストの解説・模範答案をただ読む

 ③解説動画を見て思考過程をチェック

 ④模範答案と自分の答案を比較し文章表現をチェック

 ⑤型ができていないなら写経しつつ総まくりを復習する

 ⑥縮小コピーした答案を総まくりに貼り付け隙間時間に復習

(⑤´型ができているならあてはめで何が足りないのかチェック)

(⑥´あてはめで気を付けることを論証集に反映)

 

【手順の詳細】

①:答案構成だけだと問題の細かい仕掛け(基本事項を理解した上での応用など)に気づけないことがありました。また、司法試験は説得力の試験だから文章表現能力が一番重要であると考えていました。そのため、時間が許す限り必ずフルで起案していました。

②:解説講義をスムーズに聞くための準備として解説や模範答案をななめ読みしていました。論点抽出レベルの間違いや採点実感でのダメな答案例をチェックしました。

③:その問題だけでなく初見の問題を解くときにも役に立つような思考過程をチェックしていました。大事なところやミスしてしまったことは論証集等にメモしました。

④:答案の流れ、問題提起の方法、できるだけ短い表現、事実を引用する順番、評価の方法を自分の答案と模範答案を比較して抽出していました

⑤:答案を書くと、型が全くできていないゆえに構成も論述の書き始めも上手くできず、混乱してしまいダメダメな答案を作成してしまうことがありました。そんなときは、諦めて音楽を聴きながら答案を写経していました。写経すると、答案の書き始め、構造、拾うべき事実を体で覚えることができました。写経でなんとなく覚えたことを、総まくりに記載されているあてはめのコツと照らし合わせて復習しました。写経後は同じ問題を問題文だけ見て起案し、わからなくなったらまた模範答案と照らし合わせながら復習していました。

⑥:写経対象の答案は縮小コピーして論証集に加えました。通学時に型をチェックして記憶喚起しました。

⑤´⑥´:型ができているならあてはめ部分だけチェックしました。主に、引用する事実の順序、うまい評価の方法をチェックしていました。

 

★総まくり・過去問講座後の加工後の論証★

行政法論証集の原告適格の箇所です。

 右上の赤字①②は検討の手順です。右下の赤字※マークには加藤先生が授業で注意していたことを反映させています。

 左上の赤字の※マークは過去問の模範答案でいいなと思った表現をメモしたものです。右側の青字は加藤先生が注意していたことです。

 

民法論証集の94条2項類推の箇所です。

Post-itの大きい付箋を切って貼り付けています。趣旨と規範の順番を変えて文章を短くなっています。色んな論証集や再現答案を調べてそれを真似したりもしました。

 

7.講座・教材が令和4年司法試験にどのように役立ったか

・使い勝手の良さについて

 司法試験は論文8科目に加えて短答3科目の11科目が4日間で同時にやってきます。直前期(試験3か月前)は、この大量の科目を同時に回すことになります。この時期に毎日起案したりすべての論点の論証を暗記したりするのは無理でした。そこでとるべき手段は、起案を週1にしてABランクの論点を高速で回転させるという手段でした(直前期前は週5で起案していました)。

 

ですが、この手段をとるためには①近年の出題論点を研究したうえでのランク付けがあり②規範だけでなくあてはめの指針まで書いてあり③今までの自分の学習の成果が記載されている一元化教材が必要です。③は自分でやるとして、①②を満たす一元化教材は私が知る限り、加藤ゼミナールの論証集しかなかったです。ほとんどの論証集は過去問の出題履歴を根拠にしないランク付けと、あてはめのやり方が説明されていない抽象論だけの記述に終始していました。

 

直前期に効率的に総復習するには加藤ゼミナールのテキストが一番効率的だと思いました。また、本番で合否を決めたであろう論点もすべてテキストに載っていました。

 

・講座の中身について

 私はただの受験生で法曹ではありませんが、法曹の仕事においては人を説得させる能力が一番重要だと思います。法律は自然科学・数学的に不変なものではなく、世の中の常識感覚に近い形で規定されています。不変でない常識感覚を条文や規範として規定し、それを具体的な事件に適用するには1+1=2と述べるだけでは理屈が通りません。

令和3年の刑事系トップのぶんせき本の刑法再現答案は成立させた犯罪が正解筋と違いました。それでもなぜトップなのかというと、結論までに至る説得力が一番あったからだと考えます。司法試験受験業界で、三段論法を教えられること、文章のわかりやすさが異様に重視されること、これらもすべて説得力のためです。

 

 加藤先生は「司法試験は何を書くかではなく、どう書くかで決まる」と言っていました。加藤先生はどう書くかについて徹底した説明をしています。どう書くかに至るまでの問題文の読み方まで説明しています。現場思考問題の考え方や書き方についても丁寧に説明しています。加藤ゼミナールのサイトにある無料体験講義を憲法だけでも聞いていただければ、その徹底した説明は体験できます。

 

本試験では、典型的な問題だけでなく未知の問題も出ました。典型的な問題は講義で学んだあてはめの手順を思い出しながら着実に論述しました。未知の問題(令和4年でいう憲法や民訴法)は、わからなくてもいいから三段論法や科目ごとの型を守ろうと考えて逃げ切りました。書き方が一番重要なのだと加藤ゼミナールで確信して勉強しつづけた結果、合格なんてありえないと考えていた3年前から大きく成長して合格できました。

 

8.これから司法試験・予備試験を受験する方々へ

  私は、本格的ではないにしても学部1年から中央大学で勉強していました。ですが、私は勉強法を間違えており、4年生の頃には中央ロー不合格でした。周りの友達は中央だけでなく慶應、東大、一橋に合格していました。本当に悔しかったです。さらに、私が入学する時点でも中央ローの合格率は芳しくなかったので、私は司法試験に一生受からないし、今更就活もできないと思い追い詰められ、1週間で10kg痩せました。

  ですが、周りの支えがあり諦めず、自分の弱点(法律だけでなく性格も)をすべて受け入れて、都立大ロー入試以降3年間不安になりながら頑張ってきました。その結果、合格点から100点余裕を持って合格できました。私は、司法試験は誰でも受かる試験だとは思いません。本当につらい試験でした。ですが、つらい試験だからこそ学ぶべきことも多かったし、周りの人の大切さに気付くことができました。

  合格後はしばらく会ってない人と会うきっかけにもなります。今勉強されている方で勉強に限らず本当につらい方も多いと思いますが、つらいからこそ得られるものもあると思います(私のつらさなど生ぬるいものですが)。つらいことの方が多いですが、最後まで頑張って欲しいです。

令和4年司法試験 再現答案(リンク集)

令和4年司法試験の再現答案です。

合格発表後、ぞくぞくと再現答案が公開され始めていますが、皆さんレベルが高く本当に面白い答案ばかりです。

僕の答案というと、紋切り型でしかも事実の引用も少ない気がします。法的構成もなんか怪しいし・・・

ただ形を守って書いただけの50から55点答案です。

なんか受かっていい気になってましたが相当頑張らないとまずいかも・・・

以下リンクです。

憲法 行政 

民法 商法 民訴(ない)

 刑法 刑訴

租税

令和4年司法試験 刑訴 再現答案

刑訴 再現答案(刑事系科目102.84、刑法B刑訴A)

(全体で6.5枚。設問1で3枚、設問2⑴で2.5枚(1と1.5)、設問2⑵で1枚)

 

第1、設問1

1 事例1記載のおとり捜査は「強制の処分」(197条1項但し書き)にあたり「特別の定」が必要ではないか。

⑴ 強制処分には刑訴法による法定が必要であるし、現に法定されているものの要件・手続は令状主義と結合した厳格なものとなっている。

したがって、「強制の処分」とは相手方の意思に反し、重要な権利利益を実質的に制約する処分をいう。

⑵ おとり捜査の対象者は犯罪が禁止されていることを理解して犯罪を実行しているから、法的保護に値する自己決定の権利が制約されているとはいえず、重要な権利利益の制約がない。

⑶ したがって、おとり捜査は「強制の処分」にあたらず、令状主義に反しない。

2 おとり捜査には、捜査比例の原則が適用され、捜査の公正及び法益侵害を考慮して、その二つの問題点より捜査の必要性がある場合に捜査が適法となる。

⑴ 100gの譲受け

ア H県警察I警察署の司法警察員らは、過去の大麻事件の捜査過程から大掛かりな大麻密売の疑いのある者として甲の存在を把握したから、甲には大麻犯罪の嫌疑があった。甲は、契約名義の異なる携帯電話を順次使用しており、身元や所在地は関係者の供述からも不明であったから、甲の信頼をつかむ上で100gの大麻の購入を持ち掛ける必要があった。出所したAは甲から大麻の購入を持ち掛けられた旨をPに述べているから、甲は未だに大麻を密売していることが伺われるし、この機会に甲について捜査を進める必要があった。

イ Pは甲に電話をかけ、「大麻を5キロ欲しいが、まずは100グラムをサンプルとして手に入れて、その質を確認したい。」旨述べた。これに対し、甲は「安全に取引できる場所があるか不安なので、気が進まない。この間、知り合いの密売人も捕まった。」と述べ、大麻の譲渡に乗り気ではないことを明示している。しかし、Pは安全に取引できる場所を提案して、甲に大麻を譲渡することを決意させた。これらの事情からすると、おとり捜査の手法は機会提供型だがその執拗さが小さいとはいえない。一方、被害者が存在しないため、法益侵害はない。

ウ おとり捜査の手法は執拗で公正さをある程度欠くが、大麻犯罪の重大性や甲への捜査の困難性からすると、100gの購入は相当性があった。

  したがって、上記譲受けは適法である。

⑵ 10kgの譲受け

ア そもそも甲におとり捜査をしようとしたのは、甲に対する大掛かりな大麻密売の全容を明らかにするためであるから、100gの大麻購入にとどまらず10kgの大麻を購入しておく必要があった。さらに、甲は「10キロ程度なら扱うこともある。」旨述べており、甲への大掛かりな大麻密売の疑いがさらに強まっている。さらに、100gの譲受けだけでは大掛かりな大麻密売の全容を解明できないから10kgの譲受けを受ける補充性がある。さらに、この機会を逃せば用心深い甲は二度と大量の大麻販売をしなくなるかもしれない。したがって、上記譲受けをする必要性がある。

イ 取引の前日に、甲はPに対し、「明日の取引は取りやめたい。」と告げた。Pはこれに対して、PがX組との取引を続けてきた者だから信用性があることや代金を1.5倍支払うことを提案した。それでも甲が渋ったので、Pは10kgの購入を提案した。PはAと示し合わせて、Aが甲に対して、Pが古くからX組と交遊し取引もある信用できる人物である旨を告げるよう指示した。これらの事情からすると機会提供にすぎないといえど、かなり執拗な捜査を行っているといえ、捜査の公正が害されているといえる。

ウ しかし、上記犯罪の重大性と捜査の補充性から捜査に相当性がある。

  したがって、上記譲受けは適法である。

3 よって、事例1のおとり捜査は適法である。

第2、設問2小問1

裁判所が前紀の心証に至った理由

1 乙は、灯油を散布した上、点火した石油ストーブを蹴り倒して着火させ、本件家屋に放火したことを供述した。検証結果等によると上記方法によって灯油に着火できることが判明した。

  しかし、乙の非現住建造物等放火事件の公判期日において、乙は放火したことにつき否認した。さらに、火災科学の専門家の証人尋問において、裁判所が石油ストーブを倒す方法以外での着火の可能性について補充尋問すると、専門家は他の手段によって放火できることも証言した。

したがって、乙の実行行為は石油ストーブを倒す以外の第三の方法で行われた可能性を否定できず、灯油を散布し何らかの方法で着火したことまでしか心証形成できない。

そのため、裁判所は上記心証に至った。

資料1の公訴事実に対して資料2の罪となるべき事実で判決できるか

1 資料1の公訴事実に資料2の判決をすることは「審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと」(378条3号)にならないか。

2⑴ 訴因とは一方当事者たる検察官の主張する犯罪構成要件に該当する具体的事実をいう。

   ここで訴因の機能は裁判所に対する審判対象の識別にあるから、審判対象の画定に必要な事項に変更があるなら訴因変更が必要となる。

   また、訴因の機能は被告人に対する防御範囲の告知にあるから、被告人の防御にとって重要な事項につき変更があるなら、検察官が訴因で明示している限り、訴因変更が必要である。ただし、訴訟の審理状況から被告人に不意打ちとならず、かつ、被告人にとって判決事実が訴因事実に比して不利益でない場合は例外的に訴因変更が認められる。

 ⑵ア 点火した石油ストーブを倒して火をはなったという公訴事実も、何らかの方法で火を放ったという認定事実も、放火罪の実行行為に変わりはないので、構成要件事実として識別機能を害さない。さらに、いずれの事実も令和3年11月26日のB所有家屋を対象としており、他の犯罪事実との識別という点からも識別機能を害さない。

  イ ここで、放火の方法は一般的に被告人の防御にとって重要な事実であり、本件では放火の方法が訴因で明示されている。したがって、原則として訴因変更できない。

    しかし、本件では証人尋問において乙の公訴事実以外の放火方法の可能性について専門家が示唆している。また、裁判所は、弁護人に対し、放火の態様に関して追加の主張、立証の予定があるかを確認した。したがって、訴訟の審理状況から認定事実は不意打ちとならない。

    さらに、認定事実も公訴事実も同じ犯罪が成立するにすぎないので、被告にとって不利益がない。

3 よって、訴因変更をしなくても資料2の罪となるべき事実を認定して、判決ができる。

第3、設問2小問2

1 訴因変更の要否

⑴ア 共謀の日時は犯罪の構成要件該当性という観点からも、他の犯罪事実との識別という観点からも、識別機能を害さない。

 イ ここで、共謀の日時は被告人が防御範囲を把握する際に重要な事実である。共謀成立の日時については訴因で明示されていないものの、告知機能という点からすると訴因に明示されていない場合であっても訴因変更制度の趣旨が妥当し、訴因変更をすることが原則できない。

   共謀の日時については令和3年11月1日であるかという点でしか攻防が展開されていないから、審理状況からすると共謀の成立を令和3年11月2日であると説示した上で、資料3の通りの事実を罪となるべき事実として認定して判決するのは被告人に対する不意打ちとなる。

 ウ したがって、同月2日とするには訴因変更の要否の趣旨が妥当し、訴因変更手続を要する。

2 訴因変更の可否

⑴ 「公訴事実の同一性」は新旧両訴因に基本的事実関係の同一性があるか否かで判断する。基本的事実関係の同一性は、新旧両訴因の事実の共通性を基準に非両立性を補完的に考慮する。

⑵ 令和3年11月1日か2日かは1日のズレしかなく、事実の共通性がある。さらに、両事実は非両立である。

⑶ したがって、訴因変更の可否の範囲内として訴因変更の手続きを通じて、共謀の日時を変更できる。

令和4年司法試験 刑法 再現答案

刑法 再現答案(刑事系科目102.84 刑法B刑訴A)

(全体で6枚ちょうど。設問1で1.5枚、設問2で4.5枚。一行あたり最大32文字、平均25文字)

 

第1、設問1

1 主張⑴

⑴ 窃盗罪において、本権の裏付けのない占有が保護されていることと同様に横領罪においても本件の裏付けのない委託信任関係も保護されるべきである。

⑵ 本件では、AはB所有の本件バイクを盗んだだけであり、Aに本件の裏付けはない。しかし、甲は本件バイクを預かるようにAに依頼されて、これを承諾する形で本件バイクを管理するに至ったので、Aと甲との間には保護すべき委託信任関係がある。

⑶ したがって、甲が本件バイクを「横領」すれば横領罪が成立しうるといえ、主張⑴は妥当である。

2 主張⑵

⑴ 「横領した」とは、委託の趣旨に背き、権限なく所有者でなければできないような処分をする意思の発現行為をいう。

⑵ 甲は、Aのために本件バイクを預かっていたが、Aを困らせようとAに無断で本件バイクを移動させているから委託の趣旨に背いているといえる。甲は、本件バイクを自由に処分する権限を有していない。

  ここで、甲は本件バイクを隠しただけであり移動させた後にどうするか考えていなかった。しかし、甲の自宅から約5km離れた実家の物置内に本件バイクを移動させた場合、本件バイクの保管場所を知っているのは甲だけになる。このような状態になれば、窃盗をしたAだけでなく、所有者Bも本件バイクを把握するのが困難になる。この状態にすることは実質的に甲が本件バイクを処分したものといえる。

⑶ したがって、甲が本件バイクを「横領した」といえ、主張⑵は妥当である。

第2、設問2

1 乙の、Aの右上腕部を狙って本件ナイフを同部に強く突き刺した行使に傷害罪(204条)が成立しないか。

⑴ア 刃体の長さ18cmのサバイバルナイフという鋭利な武器を右上腕部に強く突き刺す行為は身体侵害の現実的危険のある実行行為といえる。

 イ Aは加療約3週間を要する右上腕部刺傷の傷害を負い、生理的機能を害されているので「傷害」結果が生じている。上記行為と結果との因果関係もあるし、甲には同罪の故意(38条1項本文)もある。

 ウ したがって、乙の上記行為は傷害罪の構成要件に該当する。

⑵ ここで、乙はAが甲を殴っていたことから、甲の身体という「他人の権利」を防衛するために上記行為に及んだのであるから、正当防衛(36条1項)が成立し違法性が阻却されないか。

ア 「急迫」性の要件は、自力救済禁止の原則が妥当しない例外的な緊急状態を要求する要件である。したがって、被侵害者が積極的加害意思をもって侵害に臨むなど、緊急状態を認めるに足りない状況である場合には、「急迫」性が否定される。

イ 甲はAが短気で粗暴な性格で、過去にも怒りに任せて他人に暴力を振るったことが数回あったことを知っていたため、Aの前に姿を現せば、Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと思っており、侵害を予期していた。さらに、甲は頭に血が上り、刃体の長さ15cmの本件包丁という危険な武器を準備して公園に向かっている。

  Aは甲の姿を見るなり「お前、ふざけんなよ。ボコボコにしてやるからな。」と怒鳴り声をあげているが、甲はこれに対し「できるものならやってみろ。この野郎。」と大声で言い返してAを挑発している。

ウ 上記事情を考慮すると、甲において正当防衛を認め得る緊急状況はなかったため、「急迫」性が否定される。

⑷ ここで、乙は上記⑶の急迫性を否定する事情を認識していなかったのだから、責任故意が否定されないか。

ア 違法性阻却事由の不存在について認識がない場合、違法性の意識を喚起できず、行為者は規範に直面できず、故意責任を問うことができない。したがって、狭義の誤想防衛は事実の錯誤であり、責任故意が阻却されると解する。一方で、過剰性の事実につき認識している場合、規範に直面しているといえ、責任故意を阻却できない。

イ 以下では、乙の認識していた事実において正当防衛の要件を満たすか検討する。

(ア) 「急迫」とは、現に侵害が存在し又は間近に押し迫っていることをいうが、乙は急迫性を否定する状況を認識していないうえで、Aが甲を殴打しようとし侵害が間近に押し迫っている状況を認識していた。したがって、「急迫」性がある。

    Aが甲を殴打しようとする行為は暴行罪にあたる「不正の侵害」である。

(イ) 「防衛するため」といえるには、防衛の意思が必要であり、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態があることを要する。乙は甲による急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けるという単純な心理状態であったので、防衛の意思がある。

    乙は甲の身体という「他人の権利」のために上記行為に及んだ。

(ウ) 「やむを得ずにした」といえるには、防衛行為の必要性・相当性を要する。

    乙の認識だと、Aは一方的に甲に攻撃を加えようとしていたから、Aを止めるには本件ナイフでAを突き刺すことで、Aの攻撃を止められるといえ、必要性があった。

    甲は本件包丁を持ってAの侵害に臨んでいたが、甲はこれにつき認識していなかった。甲、乙及びAはいずれも20歳代の男性であり、各人の体格に大差はなかったので、乙が甲に協力した場合、Aに対して2対1になるが、Aが甲を一方的に攻撃していたことからしても、本件ナイフで刺すのは相当性がないとまではいえない。

ウ したがって、乙は違法性阻却事由不存在の認識を欠くし、過剰性の認識もないので、責任故意が阻却される。

⑸ よって、上記行為に同罪は成立しない。

2 乙の、本件原付をDに無断で発進させた行為に窃盗罪(235条)が成立しないか。

⑴ア(ア) 「他人の財物」とは他人の占有する財物をいう。ここで占有が認められるには、財物に対する客観的支配と支配意思を考慮して、財物に対する事実的支配があるかどうかによって判断する。

  (イ) Dは、配達のため本件原付の近くにいなかったが、Dは配達のために一時的にその場を離れただけで、財物に対する客観的支配がなくなったとまではいえない。また、Dは配達のために本件原付から離れただけで、本件原付を失念したわけではないから、支配意思がある。

  (ウ) したがって、Dには本件原付の占有があったといえ、本件原付は「他人の財物」にあたる。

イ 「窃取」とは、占有者の意思に反する占有移転をいうが、本件原付を発進させることはDの合理的意思に反する占有移転といえるから「窃取」にあたる。

 ウ 乙には同罪の故意がある。さらに、乙は本件原付を使ってAの追跡を振り切り、安全な場所まで移動したら本件原付をその場に放置して立ち去ろうと考えていたので、乙には権利者排除意思と経済的利用処分意思があるといえ、不法領得の意思も認められる。

 エ したがって、上記行為は窃盗罪の構成要件に該当する。

⑵ 乙は、Aの追跡から逃れるために上記行為に及んだのであるから、緊急避難(37条1項)が成立し違法性が阻却されないか。

ア 緊急避難においては法益権衡が要件の一つとなっているから、緊急避難は違法性阻却事由であると解する。

イ Aは乙を捕まえて痛めつけようと考え、走って乙を追いかけているから「現在の危難」が生じている。

  さらに、乙は「自己」の「身体」に対する危難を避けるため、上記行為に及んだ。

ウ 上記行為は、乙がAの追跡を振り切る唯一の手段であったから「やむを得ずにした行為」といえる。

エ 「生じた害」はDの本件原付の占有権・所有権という財産の利益であり、「避けようとした害」は乙の身体の利益である。したがって、「生じた害」が「避けようとした害」の「程度を超えなかった場合」にあたる。

オ したがって、上記行為には緊急避難が成立し、違法性が阻却される。

⑶ よって、同罪は成立しない。

令和4年司法試験 商法 再現答案

商法 再現答案(民事系142.62 民法B商法B民訴C)

(全体で5.3枚。設問1で1.8、設問2で2.5、設問3で1)

 

第1、設問1

1 Dは、339条2項に基づいて2020年から2028年までの月40万円ずつの報酬分の額を損害賠償請求する。

2⑴ 339条2項は、取締役の任期に対する期待を保護するため、法が特に定めた法定責任である。そのため、解任手続によらずとも実質的に任期への期待が害される場合は同条項の「解任」にあたる。

   本件では、Dは定款で変更された任期の満了後に、取締役に選任されなかったことで、取締役としての地位を失った。しかし、取締役選任時にはその契約時の任期に対して期待があったのであり、選任後に定款変更により任期が変更されたのちに再選されないと、任期に対する期待が害される。

   したがって、本件のように再選がされなかった場合も期待が害されうるとして「解任」に含まれる。

 ⑵ 「正当な理由」とは、取締役に業務を遂行させるにおいて著しく不相当といえる客観的状況があることをいう。DはAらと意見が対立していたものの、経営判断が客観的にできないといえる状態があったとはいえず、Dの解任に「正当な理由」はない。

 ⑶ 「損害」とは、取締役が任期において得られたはずの利益の喪失をいう。

 ア ここで任期は定款に定められた1年以内であり、2020年に選任されなかったことにより既に期待がなくなっているから、損害は生じないとの結論が考えられる。

   しかし、取締役は選任時において任期に対する期待を抱くので、任期に関する規定が後に変更されると上記期待が害されることに変わりはない。

   したがって、Dの選任時には任期を1年とする定款はなかったのだから、上記結論は妥当ではない。

 イ 次に、Dの任期は4年であるから「損害」は2020年から2022年の各月40万円分に限られるとの結論が考えられる。

   甲社では、乙出身の取締役については、定款変更の前後を問わず、選任から4年で退任することが慣例となっていた。DはAから取締役に誘われた際に、Aから上記慣例について説明を受けた。DはAに対し、「61歳まで甲社の取締役を務めた方が長く安定した収入が得られるので、引き受けます。」と述べ、任期が4年であることを認識してその任期に従って取締役に就任することを明示している。

   したがって、Dの任期に対する期待は2022年までのものに限られる。

 ウ したがって、「損害」は各月40万円の報酬の2020年から2022年までの合計額をいう。

3 よって、上記請求は各月40万円の報酬の2020年から2022年までの合計額を「損害」として請求できるにとどまる。

第2、設問2

1 Jは、Gに対して、本件事業譲渡契約自体を締結すべきでなかったとして、対価4000万円全額を損害賠償請求する(847条1項・2項、423条1項)。

2⑴ Gは「取締役」にあたる。

 ⑵ では、Gは「任務を怠った」といえるか。Gは会社に対して善管注意義務(330条、民法644条)を負う。

   ここで、取締役の経営判断の萎縮防止のため、善管注意義務違反の判断においては経営判断原則が妥当する。

   つまり、将来予測にわたる専門的判断が必要な事項については、行為時の状況からして判断の内容・過程が著しく不合理でない限り、上記任務懈怠は認められない。

ア 将来予測にわたる専門的判断が必要な事項か

  事業の譲受けは単にその事業の資産価値だけでなく、その事業の将来性や事業を譲り受けた場合の自社や関連会社への影響など、将来予測にわたる専門的判断を要する事項といえる。

  したがって、経営判断原則が妥当する。

イ 判断の内容が合理的か

  本件事業譲渡契約はその必要性自体あるのかどうかが問題となる。

  本件事業譲渡契約をし、乙社の日用品販売事業を救わないと、甲社の主力商品が欠けることになり、甲社を中心とした我がグループに大きな不利益が及ぶため、事業自体は譲り受ける必要性がある。さらに、丙社の売上総利益の約50%は甲社との取引に由来するものであるため、単純に乙社の同事業だけを考えて譲り受けをやめるのではなく、同事業を譲り受けなかったときの戊社への売上の影響を考えるべきである。

  したがって、本件譲渡契約自体を締結することは必要性があり、判断内容が合理性を欠くとはいえない。

ウ 判断の過程が合理的か

 本件事業譲渡契約はデュー・インテリジェンス(「DI」という)を経ていないため、判断過程に合理性があるか問題となる。

 Hは、知人の弁護士に、DIが必要とまではいえないものの乙社の状況からするとDIを行った方がよいとの回答を受けている。Hはこの回答をGに報告して、Gはそれを認識したといえる。

(ア) ここで甲社の代表取締役Aは、Gに対し、乙社の事業が立ち行かなくなると甲社の事業に大きな影響が及ぶため、本件事業譲渡を迅速に進めるように指示し、これが実現しなければGとIの取締役の再任はない旨述べた。

    戊社の取引先の割合などを考えても戊社は事業を譲り受けなければならないといえ、本件事業譲渡契約自体をしなければ戊社に損害が及ぶ。

    したがって、戊社は本件事業譲渡自体を行うことは必須であり、この点についてDIをしなくても判断の過程に合理性がないとはいえない。

(イ) 次に、乙社の代表取締役Fは、Gに対し、乙社の主要ブランドを譲渡するのだから、相応の対価とすべきであり、1か月で交渉がまとまらないなら別の譲渡先を探すか、最悪の場合には乙社の法的整理も検討する旨述べた。

    戊社は甲社との関係からしても、乙社の事業は譲り受ける必要があるから、相当の価格で支払って事業を取得する必要がある。Fは1か月で交渉がまとまらなければ別の譲渡先を探すと述べているが、事業の負債額からして他の譲渡先は見つからない可能性が高く、乙社は法的整理される可能性が高い。

    とはいえ、Fは相当の価格であれば譲渡すると述べているのだから、DIを行って適正な価額を提示すればいい。

    したがって、乙社の事業の価額を調べるためにDIを行わなかった点に、判断過程の合理性を欠く。

エ したがって、判断過程が不合理といえ、任務懈怠が認められる。

 ⑶ 判断過程においてDIを行っていれば、本件事業譲渡の契約においての対価は1000万円以下となるはずであった。したがって、少なくとも4000万円と対価の適正価格の最大値である1000万円の差額たる3000万円が「損害」として生じたといえる。

3 よって、上記請求は3000万円の範囲で認められることになる。

第3、設問3

1 丁銀行が戊社に対して22条1項に基づいて、残債務の弁済を請求する。

2⑴ 同条項の趣旨は権利外観法理にあるから、「使用」とは、第三者からみて譲受会社が譲渡会社の商号を使用しているといえる場合をいう。

   戊社は、経営するスーパーマーケットの店舗内において、登録商標Pを描写した看板を複数の入り口に掲げていた。さらに、ウェブサイトでも戊社でPについて宣伝して、そこには登録商標Pも記載されていた。

   したがって、第三者からみて「使用」があったといえる。

 ⑵ 外観法理とは「商号」とは、会社の事業の外観を現すものならよい。

   乙社は商標Pを用いて商品を製造し卸売をしていたのだから、Pには乙社の事業としての外観がある。

   したがって、商標Pは「商号」に含まれる。

 ⑶ ここで、22条1項は、事業譲渡後に譲渡会社の事業だと信じて譲受会社と利害関係を有するにいたった者を保護する規定だから、譲渡契約前に譲渡会社と利害関係を有するに至った者は22条1項に基づいて請求できない。

   したがって、事業譲渡より前に乙社に債権を有していた丁銀行は、戊社に責任をとえない。

3 よって、上記請求は認められない。

令和4年司法試験 民法 再現答案

民法 再現答案(民事系142.62 民法B商法B民訴C)

(全部で5枚ちょうど、設問1⑴で1枚、⑵で2枚、設問2で1.5枚、設問3で0.5枚)

 

第1、設問1⑴

1 CのAに対する請求は、所有権に基づく物権的返還請求と構成できる。

  Aは甲土地を占有しているので、Cに所有権があるかどうかが問題となる。

2 ここでBは甲土地について無権利だから、Cも無権利となり、Cが所有権を取得することがないのが原則である。

  また、Bの甲土地の所有権移転登記という「虚偽の意思表示」は「相手方と通じてした」もの(94条1項)ではないので、Bは「第三者」(94条2項)として保護されない。

3⑴ しかし、①虚偽の外観作出につき②帰責性ある権利者よりも③第三者の信頼を保護すべき場合は、94条2項の趣旨である外観法理が妥当するので、同条項を類推適用すべきである。さらに、②の検討において虚偽表示が行われるおそれがあるのに、権利者がそれを漫然と放置していた場合には、110条の類推適用により③で要求される信頼は善意無過失であることを要する。

⑵ 本件では、Bが所有権を有していないにも関わらず、甲土地の所有権移転登記をしたので①虚偽の外観が存在する。BはAに対し、抵当権の抹消登記手続に必要であると偽って所有権移転登記手続に必要な書類等の交付を求め、AはBの言葉を信じてこれに応じたが、元業者であるとはいえ友人としてのBに書面を預けるのはAに②帰責性がある。

   しかし、Aは自ら虚偽表示を作出したわけではなく、漫然と放置していただけだから、③としてはCの善意無過失まで必要である。CはBの登記が虚偽表示によることにつき善意である。CはBが短期間で甲土地を手放したことにつき認識しているから、この点で不審事由が存在する。そのため、CはなぜBが甲を短期間で手放したのかを確認する調査確認義務を負う。CがBに対して上記経緯の理由を尋ねたところ、Bは「知らない人と契約を交わすのを不安に感じたAの意向で、いったん友人である自分が所有権を取得することになった」という一般的に合理的といえる説明をしている。したがって、Cにおいて調査確認義務は果たされているといえ、Cに過失はない。

 ⑶ したがって、Cには94条2項が類推適用される。

4 よって、Cに甲土地所有権が認められ、上記請求が認められる。

第2、設問1⑵

1 請求1及び2は、転得者に対する詐害行為取消請求と構成できる(424条の5第1号)。

2 AB間の契約④は424条における詐害行為取消の対象となるか。

⑴ 甲土地は、Aが所有する唯一のめぼしい財産であるから、Aは無資力であるといえる。

⑵ア 「債権」(424条1項)は、詐害行為取消権の趣旨が責任財産保全にあることから、原則、金銭債権であることを要する。しかし、特定物請求権も究極的には債務不履行責任に基づく損害賠償請求権(415条1項)という金銭債権に転化するから、詐害行為取消時に同請求権に転化していれば同「債権」に含まれる。

 イ AD間では、契約③の売買契約によりDがAに対して甲土地の所有権移転債権を有していた。しかし、AB間で契約④の売買契約が締結されたうえ、Bが登記を備えたので、Dの上記債権は履行不能(412条の2第1項)となり、令和2年4月12日時点で損害賠償請求権に転化した。

 ウ したがって、詐害行為取消時に金銭債権に転化しているといえ、「債権」にあたる。

⑶ 「害することを知ってした」かは、行為の客観的側面と行為者の主観的側面を相関的に考慮して判断する。Dに4000万円で売った土地をBに2000万円で買うのは、Bからの支援を期待していたことを考慮しても、Bの行為には客観的に詐害性がある。さらに、Bはかねてから恨みを抱いているDに損害を与えようとしているから、主観的に詐害意思が強い。

  したがって、Bは「害することを知ってした」といえる。

⑷ AB間の契約は「財産権」たる甲を対象とする(424条2項)。さらに、DのAに対する所有権移転債権は契約④より「前の原因に基づいて生じたもの」(同条3項)である。DのAに対する債権は「強制執行により実現」(同上4項)できる。

⑸ BはDとの関係で背信的悪意者にあたり「第三者」(177条)にあたらないから、DはBに対して所有権を対抗できる。しかし、所有権に基づく物権的請求か詐害行為取消請求かは、権利者が選択できるから、424条の請求を排斥しない。さらに、本件ではCが絶対的構成により保護されるから、424条の請求を認める必要性がある。

⑹ したがって、Bに対して上記請求ができる。

3 Cは「債務者がした行為が債権者を害することを知っていた」か。

  Cは、契約⑤の締結に当たり、契約③の存在やAが充分な資力を有していないことについてBから説明を受けていたのだから、Cは詐害行為につき悪意であった。

  したがって、424条の5柱書・1号の要件は充足する。

4 しかし、424条の6第2項は財産の返還又は価格の償還の請求しか規定していないから、Dは自己に登記を移転できず、Aのもとに登記を移転できるにとどまる。

  よって、請求1は認められず、請求2だけ認められる。

第3、設問2

1 Fの請求3は、賃貸借契約に基づく賃料支払請求(601条)と構成できる。

2 ㋐の主張の根拠

⑴ Fは乙建物をGに賃貸借し、Gは乙「建物」につき「引渡し」を受けたので、借地借家法31条の「対抗要件を備えた」(605条の2第1項)。

⑵ 譲渡担保契約は当事者があえて所有権を移転させる形態の契約を選択した以上、同契約により対象物の所有権が譲渡担保権者に移転するといえるから、令和3年5月31日時点で「不動産が譲渡された」といえる。

⑶ Hは同年6月5日時点で「所有権の移転の登記」を備えたので、同時点で賃貸人たる地位がFからHに移動する。

⑷ Gはこれを根拠にFからの上記請求を拒否する。

3 Fの反論とその当否

⑴ 主張㋑は、譲渡担保契約をしても、Fには使用収益権が残っているので、「譲渡」(605条の2第1項)にあたらないというFの反論である。

ア 605条の2の趣旨は、賃貸借契約は不動産の所有者はその者の個性に関係なく、使用収益権を有していることで賃借人に対して賃借義務を履行できることから、所有権の譲渡と対抗要件の具備があった場合に、賃貸人たる地位の移転も認める点にある。したがって、所有権が移転したとしても、使用収益権が前主に残存しているなら前主が賃借義務を履行できるといえ、後主に賃貸人たる地位は移転しない。

イ 譲渡担保契約においてはFに弁済期到来まで使用収益権が留保される。一方、弁済期が経過すると譲渡担保設定者たるFは使用収益権を失う。したがって、Fは弁済期が経過する令和5年5月までは乙建物の使用収益権を有するとともに、賃貸人たる地位も有する。

ウ したがって、Fの請求は5月分の賃料の請求のみ認められる。

⑵ 主張㋒は、FH間の使用収益権の留保により「賃貸人たる地位」がFに「留保」(同条2項)されているというFの反論である。

ア 譲渡担保契約は使用収益権を譲渡人に留保するが、賃貸人たる地位は使用収益権に依存する。したがって、使用収益権が留保されている限り、賃貸人たる地位も譲渡人に留保されるといえるから、弁済期経過までは「賃貸人たる地位」が譲渡人に「留保」される。

イ したがって、上記⑴と同様に、Fは5月分の請求のみ認められる。

4 よって、Fの請求は5月分のみ認められる。

第4、設問3

1 Mは、KM間における死因贈与(554条)契約に基づいて生じたKの所有権移転登記債務が、Kの死亡によりLに相続された(882条・896条・887条1項)として、Lに所有権移転登記手続請求をする。

2 Lの主張㋓は、「丙不動産をMに与える」という死因贈与が「丙不動産をN県に遺贈する」という遺言と「抵触」することを理由にこれが撤回された(1023条1項、1022条)とするものである。

3 ここで、死因贈与においては遺言の規定が準用されるものの、その方式については適用されないので1023条・1022条は適用されない。

4 よって、主張㋓は認めれれず、Mの請求が認められる。