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令和4年司法試験 商法 再現答案

商法 再現答案(民事系142.62 民法B商法B民訴C)

(全体で5.3枚。設問1で1.8、設問2で2.5、設問3で1)

 

第1、設問1

1 Dは、339条2項に基づいて2020年から2028年までの月40万円ずつの報酬分の額を損害賠償請求する。

2⑴ 339条2項は、取締役の任期に対する期待を保護するため、法が特に定めた法定責任である。そのため、解任手続によらずとも実質的に任期への期待が害される場合は同条項の「解任」にあたる。

   本件では、Dは定款で変更された任期の満了後に、取締役に選任されなかったことで、取締役としての地位を失った。しかし、取締役選任時にはその契約時の任期に対して期待があったのであり、選任後に定款変更により任期が変更されたのちに再選されないと、任期に対する期待が害される。

   したがって、本件のように再選がされなかった場合も期待が害されうるとして「解任」に含まれる。

 ⑵ 「正当な理由」とは、取締役に業務を遂行させるにおいて著しく不相当といえる客観的状況があることをいう。DはAらと意見が対立していたものの、経営判断が客観的にできないといえる状態があったとはいえず、Dの解任に「正当な理由」はない。

 ⑶ 「損害」とは、取締役が任期において得られたはずの利益の喪失をいう。

 ア ここで任期は定款に定められた1年以内であり、2020年に選任されなかったことにより既に期待がなくなっているから、損害は生じないとの結論が考えられる。

   しかし、取締役は選任時において任期に対する期待を抱くので、任期に関する規定が後に変更されると上記期待が害されることに変わりはない。

   したがって、Dの選任時には任期を1年とする定款はなかったのだから、上記結論は妥当ではない。

 イ 次に、Dの任期は4年であるから「損害」は2020年から2022年の各月40万円分に限られるとの結論が考えられる。

   甲社では、乙出身の取締役については、定款変更の前後を問わず、選任から4年で退任することが慣例となっていた。DはAから取締役に誘われた際に、Aから上記慣例について説明を受けた。DはAに対し、「61歳まで甲社の取締役を務めた方が長く安定した収入が得られるので、引き受けます。」と述べ、任期が4年であることを認識してその任期に従って取締役に就任することを明示している。

   したがって、Dの任期に対する期待は2022年までのものに限られる。

 ウ したがって、「損害」は各月40万円の報酬の2020年から2022年までの合計額をいう。

3 よって、上記請求は各月40万円の報酬の2020年から2022年までの合計額を「損害」として請求できるにとどまる。

第2、設問2

1 Jは、Gに対して、本件事業譲渡契約自体を締結すべきでなかったとして、対価4000万円全額を損害賠償請求する(847条1項・2項、423条1項)。

2⑴ Gは「取締役」にあたる。

 ⑵ では、Gは「任務を怠った」といえるか。Gは会社に対して善管注意義務(330条、民法644条)を負う。

   ここで、取締役の経営判断の萎縮防止のため、善管注意義務違反の判断においては経営判断原則が妥当する。

   つまり、将来予測にわたる専門的判断が必要な事項については、行為時の状況からして判断の内容・過程が著しく不合理でない限り、上記任務懈怠は認められない。

ア 将来予測にわたる専門的判断が必要な事項か

  事業の譲受けは単にその事業の資産価値だけでなく、その事業の将来性や事業を譲り受けた場合の自社や関連会社への影響など、将来予測にわたる専門的判断を要する事項といえる。

  したがって、経営判断原則が妥当する。

イ 判断の内容が合理的か

  本件事業譲渡契約はその必要性自体あるのかどうかが問題となる。

  本件事業譲渡契約をし、乙社の日用品販売事業を救わないと、甲社の主力商品が欠けることになり、甲社を中心とした我がグループに大きな不利益が及ぶため、事業自体は譲り受ける必要性がある。さらに、丙社の売上総利益の約50%は甲社との取引に由来するものであるため、単純に乙社の同事業だけを考えて譲り受けをやめるのではなく、同事業を譲り受けなかったときの戊社への売上の影響を考えるべきである。

  したがって、本件譲渡契約自体を締結することは必要性があり、判断内容が合理性を欠くとはいえない。

ウ 判断の過程が合理的か

 本件事業譲渡契約はデュー・インテリジェンス(「DI」という)を経ていないため、判断過程に合理性があるか問題となる。

 Hは、知人の弁護士に、DIが必要とまではいえないものの乙社の状況からするとDIを行った方がよいとの回答を受けている。Hはこの回答をGに報告して、Gはそれを認識したといえる。

(ア) ここで甲社の代表取締役Aは、Gに対し、乙社の事業が立ち行かなくなると甲社の事業に大きな影響が及ぶため、本件事業譲渡を迅速に進めるように指示し、これが実現しなければGとIの取締役の再任はない旨述べた。

    戊社の取引先の割合などを考えても戊社は事業を譲り受けなければならないといえ、本件事業譲渡契約自体をしなければ戊社に損害が及ぶ。

    したがって、戊社は本件事業譲渡自体を行うことは必須であり、この点についてDIをしなくても判断の過程に合理性がないとはいえない。

(イ) 次に、乙社の代表取締役Fは、Gに対し、乙社の主要ブランドを譲渡するのだから、相応の対価とすべきであり、1か月で交渉がまとまらないなら別の譲渡先を探すか、最悪の場合には乙社の法的整理も検討する旨述べた。

    戊社は甲社との関係からしても、乙社の事業は譲り受ける必要があるから、相当の価格で支払って事業を取得する必要がある。Fは1か月で交渉がまとまらなければ別の譲渡先を探すと述べているが、事業の負債額からして他の譲渡先は見つからない可能性が高く、乙社は法的整理される可能性が高い。

    とはいえ、Fは相当の価格であれば譲渡すると述べているのだから、DIを行って適正な価額を提示すればいい。

    したがって、乙社の事業の価額を調べるためにDIを行わなかった点に、判断過程の合理性を欠く。

エ したがって、判断過程が不合理といえ、任務懈怠が認められる。

 ⑶ 判断過程においてDIを行っていれば、本件事業譲渡の契約においての対価は1000万円以下となるはずであった。したがって、少なくとも4000万円と対価の適正価格の最大値である1000万円の差額たる3000万円が「損害」として生じたといえる。

3 よって、上記請求は3000万円の範囲で認められることになる。

第3、設問3

1 丁銀行が戊社に対して22条1項に基づいて、残債務の弁済を請求する。

2⑴ 同条項の趣旨は権利外観法理にあるから、「使用」とは、第三者からみて譲受会社が譲渡会社の商号を使用しているといえる場合をいう。

   戊社は、経営するスーパーマーケットの店舗内において、登録商標Pを描写した看板を複数の入り口に掲げていた。さらに、ウェブサイトでも戊社でPについて宣伝して、そこには登録商標Pも記載されていた。

   したがって、第三者からみて「使用」があったといえる。

 ⑵ 外観法理とは「商号」とは、会社の事業の外観を現すものならよい。

   乙社は商標Pを用いて商品を製造し卸売をしていたのだから、Pには乙社の事業としての外観がある。

   したがって、商標Pは「商号」に含まれる。

 ⑶ ここで、22条1項は、事業譲渡後に譲渡会社の事業だと信じて譲受会社と利害関係を有するにいたった者を保護する規定だから、譲渡契約前に譲渡会社と利害関係を有するに至った者は22条1項に基づいて請求できない。

   したがって、事業譲渡より前に乙社に債権を有していた丁銀行は、戊社に責任をとえない。

3 よって、上記請求は認められない。