令和4年司法試験 憲法 再現答案
(全体で7枚ちょうどくらい。設問1で3.7、設問2で3.3。一行あたり最大32文字、平均25文字)
第1、設問1
決定①
1 憲法23条違反について
⑴ 憲法23条は、研究活動の自由を学問の自由として保障する。
ここで、上記自由は自由権としての性質しかなく、請求権としての性質を有さない。
したがって、Yの助成金を受給する自由は請求権的性質を有するので、23条で保障されない。
⑵ Yの上記自由が憲法23条で保障されるとしても、制約が正当化される。
ア まず、助成金が自由権として保障されるとしても、大学側の決定した支給に基づくものであることには変わりないから、請求権的性質を否定できず権利としての要保護性が低い。
X大学には大学の自治が認められているから、制約につき裁量が認められている。
X大学は、Yの研究内容に着目するのではなく、助成金の公正な利用という目的で制約をしているのだから制約態様が弱い。
したがって、目的が正当で、目的と手段に合理的関連性があれば、決定①が正当化される。
イ (ア)決定①は助成金の公正な利用を目的としているから、目的は正当である。
(イ)Yは、ウェブサイト「Y研究所」の運営の委託及び実地調査のための国内各地への出張に研究助成金の3分の2以上が支出されているが、ウェブサイトは研究結果の発信のほかにYの政治的意見の表明や団体Cの活動のためにも利用されている。このような実体からすると、Yは助成金を研究活動のためではなく、政治活動として支出しているから、Yの助成金の支出は助成金の公正な利用を阻害する。
また、出張に際しては、Yが、団体Cと連携して活動している各地の団体に聞き取り調査を行うだけでなく、それらの団体が主催する学習会でX県の産業政策を批判する講演を無報酬で行っていることが明らかになった。この事情から、Yは助成金を利用して、自身の政治活動を付随して行っているといえるから、Yの助成金の支出は助成金の公正な利用を阻害する。
したがって、Yに助成金を支出しないことは、目的を促進する手段として適合性がある。
ウ よって、決定①は、目的が正当で目的と手段に合理的関連性があるので、合憲である。
2 14条違反について
⑴ Yは、A研究所ではこれまでに研究員に研究助成が認められなかった例はなく、優れた研究成果を上げてきた自分にだけ助成が得られないと主張しているが、これまでの研究員に助成金が認められていたのは助成金を受給するにふさわしかったからであり、Yとの間では事実上の区別があったに過ぎない。
したがって、そもそも14条1項の検討対象となる別異取り扱いがない。
⑵ 別異取り扱いがあるとしても、合理的理由に基づく差別なので合憲である。
差別の合理的理由の審査の厳格度は、事柄の性質によって変わり得る。
ア まず、決定①は助成金の不正な利用に着目した差別だから、学問的な「信条」を理由とした差別ではない。
さらに助成金がなくても、研究活動を続けることはできるので、差別によって重要な利益が失われるわけではない。
したがって、目的が正当で目的と手段に合理的関連性があれば決定①は合憲である。
イ(ア) 差別の目的は、助成金の公正な利用であるから、正当といえる。
(イ) Yは助成金の公正な利用を阻害する。決定①は、その他の公正な助成金の利用をしている研究員とYを差別することにより上記目的を達成できる。したがって、決定①には手段適合性がある。
したがって、目的と手段に合理的関連性がある。
⑶ よって、決定①は合憲である。
決定②
1 憲法23条の学問の自由は、教授の自由を保障する。成績評価の自由は、学問の内容自体ではなく、テストやレポートの採点の結果としてなされる自由だから、教授の自由に含まれない。
したがって、Yの自由は憲法23条で保障されない。
2 また、憲法23条で保障されるとしても、制約が正当化される。
⑴ 成績評価は学問の内容自体ではないので、権利の重要性が低い。さらに、成績評価には大学の自治が及ぶので制約には裁量が認められる。
したがって、目的が正当で目的と手段に合理的関連性があれば、決定②は合憲である。
⑵ア 決定②の目的は生徒が公平に成績評価を受けることであるが、この目的は14条1項に沿うものであり重要といえる。
イ Yは自身が担当した「地域経済論」の成績評価に対して、団体Cに加入した学生がいずれも「S」の最高評価を得ている一方で、期末試験の答案でブックレットの内容を批判した学生の多くが不合格の評価を受けているので、Yの成績評価は生徒に対する公平な成績評価という目的を阻害する。一方、決定②は再度、公平に成績評価をするものであり、目的を促進する。
したがって、決定②には手段適合性がある。
ウ そのため、決定②は目的が正当で目的と手段に合理的関連性がある。
3 よって、決定②は合憲である。
第2、設問2
Yからの反論
1 決定①
⑴ 23条
イ 助成金を受給する権利は重要で、大学の自治による裁量の付与は認められないので、X大学の主張する審査基準は不当である。
ウ 決定①による制約は正当化されない。
⑵ 14条1項
ア 他の研究員との別異取り扱いは事実上のものではなく、差別がある。
イ Yは「信条」を理由に差別されているから、X大学の主張する審査基準の厳格度は不当である。
ウ 上記差別は合理的理由がなく、差別が許されない。
2 決定②
⑴ Yが成績評価をする自由は教授の自由として憲法23条で保障される。
⑵ 成績発表をする自由は重要な権利だから、X大学の主張する審査基準の厳格度は不当である。
⑶ Yの上記自由に対する制約は正当化されない。
1 決定①
⑴ 23条
助成金の受給は、X大学の給付決定を前提とした請求権である。ここで、学問の自由が保障された経緯は真理を探究するという学問の性質上、国家から弾圧されやすいため、これを防ぐ点にある。このことからすると、一度助成金を給付した場合に、不交付とするのは弾圧されやすい学問の自由を侵害しうるので、助成金を受給する自由は自由権として保障されるべきである。
したがって、Yの自由は憲法23条で保障される。
イ(ア) 助成金が受給できないと学問研究を事実上できない状態になる場合もあるから、学問の自由の性質上、助成金を受給する権利は重要である。さらに、大学の自治は本来、学問の自由を手厚く保護する点にあるから、大学の自治を理由に学問の自由を制約する場合に裁量が広く認められることはない。
(イ) したがって、決定①は目的が重要で目的と手段の間に実質的関連性が必要である。
ウ(ア) 決定①の目的は助成金の公正な利用にあるから目的は重要といえる。
(イ) Yは自身が助成を得て行ってきた研究活動はすべて「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」という助成の趣旨に沿ったものであると主張するが、助成の趣旨は学問的側面から地域経済の振興を図るというもので、政治的側面から同振興を図ろうとした場合、助成金の趣旨に反する。Yは助成金を自身の政治活動にも利用していたので、助成金が趣旨に反して利用されていたといえる。そのため、Yの助成金利用は目的を阻害する。
決定①によりYが助成金を利用できないようにすれば、上記目的を促進できるので決定①は手段適合性がある。
したがって、目的が重要で目的と手段に実質的関連性があるといえる。
エ よって、決定①は合憲である。
⑵ 14条1項
Yに助成金が交付されず、他の研究員が交付されていたのは、他の研究員が審査の結果として公正な助成金の利用をしていたと認められたからであり、差別は事実上のものにすぎない。
したがって、差別自体がない。
2 決定②
⑴ 成績評価はそれ自体では教授の自由には含まれないものの、大学生は十分な批判能力を備えており講義内容などについて教員に広い裁量が認められていることからすれば、成績評価をして学問の内容を身につけていない生徒を不合格にすることで再び講義を受けさせて学問の内容を身につけさせることが、教授の自由の範囲に含まれるといえる。
したがって、Yの成績評価をする自由は教授の自由に含まれ23条で保障される。
⑵ア 成績評価は学問の内容自体ではないが、学問の内容を確実に身につけさせるにおいて必要であるから権利の重要性が高い。さらに、大学の自治は学問の自由の保障のためのものだから、学問の自由を制約する際に大学の自治を根拠に裁量を認めることはできない。
イ したがって、目的が重要で目的と手段の間に実質的関連性がある場合にのみ、決定②は合憲となる。
⑶ア 生徒間の成績評価の公平性は憲法14条1項の平等権に妥当する重要な目的である。
イ ブックレットの論考はいずれもYの研究を踏まえた学問的な根拠に基づくものであって、それを十分な理由を示さず批判している答案を提出した生徒が不合格になっただけで、YはC団体に加入しない生徒に報復するために不合格にしたわけではない。団体Cに参加していた生徒はもともと社会問題に関心の高い学生が多いために、同生徒が好成績を収めただけで、Yが同生徒を優遇したわけではない。さらに、Yの講義では6割以上の学生が5段階中の4を取得しているから、不合格になった生徒は単に生徒が学修に熱心に取り組んでいなかっただけである。
したがって、Yの成績評価は目的を阻害しないので、決定②には手段適合性がない。
ウ したがって、目的は重要だが、目的と手段に実質的関連性がない。
⑷ よって、決定②は違憲である。